平成13年(ワ)第2870号 損害賠償請求事件
原告 ○○○ 外39名
被告 小泉純一郎 外1名
答 弁 書
平成14年5月23日
千葉地方裁判所民事第5部合議B係 御中
(送達場所)
〒105−0003
東京都港区西新橋1丁目6番13号虎ノ門吉荒ビル3階
野邊寛太郎法律事務所
被告小泉純一郎訴訟代理人
弁護士 野邊寛太郎
弁護士 野邊一郎
弁護士 村岡みち代
電話 03-3502-8431
FAX 03-3501-8229
第1 本案前の答弁
1 被告小泉純一郎に対する請求をいずれも却下する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決を求める。
第2 本案前の答弁の理由
1 原告らによる金員支払請求は、これをなすことによって憲法によって保障された被告小泉純一郎(以下、「小泉」という。)の信教の自由を制限しようとする不当な目的を達成しようとするものというほかない。
2 小泉は、一個の自然人として、目本国憲法によって保障された信教の自由を享受しうる地位を有しているものであるところ、平戌13年8月13日に靖國神社に参拝したのは、自然人たる小泉に対して認められた前記信教の自由の実現にほかならない。
ところが、原告らの本訴請求は、このような小泉に認められた前記信教の自由の実現を違憲・違法と断じた上で損害賠償の請求をなすものであるから、このような訴訟を提起した原告らの目的は、訴訟提起という圧力を小泉に対して加え、これにより間接的に小泉に対して、日本国憲法上保障された信教の自由の実現としての靖国神社参拝を一切行わせないことを企図してのものというほかない。
3 すなわち、本件訴訟は、訴訟の名を借りて、小泉の有する日本国憲法上保障された人権を制限しようとするものにほかならないので、その違法性の程度は極めて著しく、訴訟提起自体を不適法とするものと評価されるから、原告らの本件金銭請求は、却下を免れないのである。
第3 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの被告小泉純一郎に対する講求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決を求める。
第4 請求の原因に対する答弁
1 第1、1のうち、原告らの思想内容及び立場は不知。その余は、否認ないし争う。
被告小泉純一郎(以下、「小泉」という。)は、平成13年8月13日の靖国神社への参拝(以下、「本件参拝」という。)の後、報道陣の質間に対し、「公式とか私的とか、私はこだわりません。総理大臣である小泉純一郎が心をこめて参拝した。」と述べたものであり、「内閣総理大臣として参拝した。」などとは述べていない。
2 第1、2及び3のうち、原告らの地位及び立場、原告らの考える世界観、思想内容及び宗教観は不知。その余は、否認ないし争う。
3 第2は不知。
4 第3のうち、小泉が平成13年8月13日に靖国神社に参拝したこと、本殿において一礼したこと、同所で黙とうしたこと、靖国紳杜の参拝に際して公用車を使用したこと、秘書官が同行したこと、靖国神社参集所において「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳したこと、一対の献花をしたこと、献花に「献花 内閣総理大臣 小泉純一郎」との名礼が付してあったこと、献花代が金3万円であったこと、小泉が靖国神社への参拝についての国会答弁をしたこと、福田官房長官が本件参拝に先立って被告国の答弁書添付の「小泉内閣総理大臣の談話」を発表したこと、小泉が中華人民共和国並びに大韓民国の各要人と会談したことは認め、それ以外の小泉の関与した事実関係については否認、その余の事実関係については不知。
本件参拝を違憲・違法ないし不当とする原告らの主張は争う。
本件参拝は、内閣総理大臣の職務として行われたものではなく、献花代は、本件参拝に先立って、平成13年8月12日以前に小泉の私費により支弁されている。
公用車を用いたのは、日本国の行政府の長である内閣総理大臣の警備の必要性からであり(内閣総理大臣については、24時間体制で警備がなされている。)、小泉の移動にあたっては、公的な場合も、私的な場合にも公用車を使用するものとされている。
また、秘書官についても、緊急連絡等の必要性から、内閣総理大臣の私的日程にも随行しているところである。
5 第4のうち、靖国神社が宗教法人であることは認め、その余は不知。
6 第5及び第6は不知。
7 第7のうち、日本国憲法が信教の自由を保障し、いわゆる政教分離規定を置いていること、同憲法第20条第1項に「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」と規定され、第20条第3項に「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と規定され、第89条に「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」と規定されていること、公務員は個人として宗教の自由を有していること、平成13年8月13日、小泉が秘書官を同行して公用車で靖国神社へ行ったこと、同神社参集所において「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳したこと、本殿で一礼したこと、本件参拝後に記者団に対して「公的とか私的とか私はこだわりません。総理大臣である小泉純一郎が心をこめて参拝した。」と述べたことは認める。
本件参拝が内閣総理大臣の職務として行われたとすることをはじめ、その余の小泉の関与した事実関係については否認し、その余の事実関係については不知。
本件参拝を違憲・違法とし、ないし、不当とする主張は争う。
本件参拝によって、何らかの法益が侵害されたことはなく、本件参拝は、違憲でも、違法でも、不当でもない。
なお、前述のとおり、本件参拝は、内閣総理大臣の職務として行われたものではない。
8 第8、第9は否認ないし争う。
繰り返しになるが、本件参拝は、内閣総理大臣の職務として行われたものではないし、本件参拝によって、何人かの権利が侵害されたり、その他の何らかの法益が侵害されたことなど全くない。
原告らの主張は、単に、他人の宗教観が気にくわないという見地からなされているものにほかならず、原告らの主張こそ、小泉の信教の自由を侵害しようとするものにほかならない。
第5 小泉の主張
1 繰り返し述べているとおり、本件参拝は、小泉が内閣総理大臣としての職務として行ったものではなく、このことは、献花代を小泉の私費より支弁していることから明らかである。
2 更に、原告らには、本件参拝によって何の損害も発生していない。
本件参拝によって、原告らに対して法律上保障された何らかの具体的権利ないし法益が侵害された事実はないからである。
3 本件訴訟は、原告らが訴訟の名を借りて、自らの世界観、歴史観、宗教観を小泉に対して強制、強要し、日本国憲法に保障された基本的人権の享受を認められた小泉個人の有する、原告らとは別の信教の自由を制限するために提起されたものとしか評価することができないものであって、その請求には何の理由もないから、前述するとおり、本件訴訟は、遠やかに却下ないし棄却されるべきものと思料する。
以上